〜6年たって新たな事業展開を見せるウーリン(五菱)〜

本国の勢いを買って中国メーカーの海外展開が止まらない。
既に本国は中国は日本を抜いて世界一の自動車輸出国になっているのだが、海外での事業展開は徐々に『現地生産ステージ』に入っているといえよう。
今回は日本車のシェアが90%以上とまさに日本車天国のインドネシアで徐々にプレゼンスを発揮しつつある中国ブランド『ウーリン』(=WULING,五菱)について取り上げたい。

6年の苦労の甲斐あって昨年2022ようやく3万台の販売。
ウーリンのブランドホルダーは上海通用五菱汽車。中国国有会社の上海汽車とアメリカGM(ジェネラル・モータース)と柳州五菱汽車の3社合弁会社である。 インドネシアの事業経営(生産販売)のイニシャティブは株式のマジョリティを持っている上海汽車と思われる。
インドネシアへの進出は2017年。『コンフェロ』という3列シートのMPVを国産化モデルとしてスタートした。モデルはまさにインドネシアの当時の(現在も)ベストセラーであるトヨタのアバンザやキジャンイノーバをベンチマークとして開発したものである。

それまで完成車として入っていた中国車と比較して、商品開発やインドネシア事業への熱量も全く異なるなるもので、国産化の進展、販売・サービス網の整備やブランド展開などこれまで何十年と日本ブランドがやってきた成功モデルを着実に実行していった。
価格も競合日本ブランドのMPVのスペックと比較しざっと30%安い。今や全国140となった販売店への投資資金や在庫資金支援も半端ない。その後電子装備満載のSUVモデルなど商品ラインアップも充実し日本車の牙城が脅かされるのではないかとの懸念があった。
ファーストモデルの発売から、6年後の2022年。ウーリンの販売量は年間3万台弱とインドネシア市場でのプレゼンスを発揮できるまでに至ったものの、この量ではどう考えてもインドネシア事業として採算が取れていると思えない。コンフェロのベースとなっている、五菱の 「宏光」は中国本土では年間60万台を販売するベストセラーであるため、主要部品を生産する設備の減価償却はもう終わっていて、インドネシアの2万台など誤差の範囲と考えても、である。
東南アジアへの中国ブランド進出はほとんど政治の産物
この出血サービスの陰に見え隠れする中国の『一帯一路』政策。中国からヨーロッパにつながる大経済圏を作ろうと2013年に習近平国家首席が提唱したもので、海のシルクロードに位置するインドネシアへのウーリンの進出も利益追求の海外事業というよりこの一環としての政治的意図が強いのではないだろうか?国家の政府開発融資(ODF)を活用しているかは不明であるが、国有企業のみならず民間企業や外国資本との合弁会社も党の政策には従わざるを得ないのではないだろうか。
採算無視の力ずくのやり方は、国家の強力な後押しの下強引な交渉によって日本から勝ち取ったボゴール〜バンドン新幹線やインドネシア東部でニッケル採掘や加工プロジェクトと会い通ずるものがある。
マレーシアでの吉利(ジーリー)汽車のプロトンブランド支援や、タイでのMGや長城汽車などの動きも然りでとても民間企業としてのは採算度外視のプロジェクトとしか思えないのである。それとも長期的視点に立った先行投資であろうか。
インドネシアの経済発展が進むと生きてくるか?
ところがウーリンが昨年末から販売し始めたバッテリー式電気自動車『Air EV』がこれまでとは違う評価を生んでいる。発売後わずか4ヶ月で8,000台以上を売り上げ、街中でも見かけるようになってきている。日本ブランドがまだ消極的なBEV市場でこの4人乗りの小さなBEV『Air EV』は異彩を放っている。販売価格は日本円で250万円を切っており、都市部の富裕層のセカンドカー、サードカー、(場合によってはフォースカー)として好評を博している。

これに味をしめたウーリンは小型 BEVのモデルの追加も考えているようである。またこの 「Air EV」は日本でも販売準備が進行中。インドネシアだけでないウーリンのアジアでの事業展開のスピードにも目を見張るものがある。


本年2023年の1−5月でインドネシアのBEVの販売は約8,000台。トヨタの新モデル投入によって急激に販売量を伸ばしたハイブリッド車の12,000台と合わせ電気自動車は約2万台。まだ乗用車市場全体の約6%ではあるものの、今後の電気自動車の需要増加、BEVとハイブリッドの戦い、の中でのウーリンの動きには目が離せない。