10年近く停滞しているASEAN各国の新車市場
日本では昭和30年代から40年代にかけ、経済成長とともに新車の販売台数が爆発的に増えていった。これまで移動手段としてバイクや公共機関を使っていた人たちが、世帯収入が増えることによってあこがれの新車を買う。 新しもの好きのうちの親父もメグロのバイクを売ってサニー1000を買った。「モータリゼーション 」というものが到来し、トヨタやニッサンといった自動車メーカーは俄然活気づいたのである。
その後タイやインドネシアなど東南アジアに進出していった日本の自動車メーカー。いつか日本と同じような「モータリゼーション 」が起こることを夢見て、完成車の輸出から現地生産、大型投資による高度国産化とビジネスを深化させてきた。ビッグバンの条件である1人あたりのGDPが3000ドルを越えることを心待ちにしていたのである。
それから何十年も経ち、東南アジア各国は一人当たりのGDPが3,000$を超えた今、モータリゼーションは起こったのか?
否である。
タイやインドネシアでは2010年頃に一時的に新車市場が2倍になったものの、その後は100万台レベル(乗用車は70−80万台)で足踏みしており、東南アジア全体を足しても日本の新車市場の500万には満たない数字となっているのが現実である。
後進国?に転落したインドネシア
そもそも新車の需要が伸びていくには、各国の世帯収入がクルマという高価格商品が買えるまで伸びていることが必要だ。ところが各国とも中間層が伸びているといわれているものの、大多数の世帯が新車を買えるまでには至っていないと思われる。
どうする新車ビジネスを謳歌してきた日系ブランド
それどころかインドネシアは国民の所得水準のバロメータとして使われる一人当たりの国民総生産(GNI)が2020年には3,912$に減少し、世界銀行の定義づけとしては上位中所得国から下位途上国に転落。コロナ禍での経済停滞と元々の2億6000万という分母の多さと言うハンディはあるものの、デモグラフィー上の平均的世帯にとってみると新車は依然と高嶺の花である状況は変わらない。
結局のところ現在新車を買っている層はすでに新車を既に買って使っている『勝ち組層』であり、とくに都市部では複数の新車を保有しているお金持ち。年間発生する乗用車需要はそのお金持ち層が新車を買い替えか買い足す(増車)といった需要であり、需要の母体がふくらんでいるのではない。自一握りの層が景気や新車に刺激されて新車を買っているだけなのである。こういった市場構造では急激な新車市場の拡大は望めない。
さて、大きな拡大の見通しの乏しい市場で日本メーカー11車はがひしめき合っている姿は日本の市場と全く同じで少し心配なのだが、現在のところそれなりの投資規模と事業規模で生き残っているのはまさに奇跡といわざるを得ない。まさにこれまで40年以上の間『小さく産んで大きく育てるといった』日本的な地道なビジネスモデルを続けてきた先人には敬意を表したい。
しかしながら、昨今の韓国車や中国車が限られた凄い勢いとスピードで暴力的にパイを奪いにかかっており、日系メーカーもぼやぼやしてはいられない事が明白になっている。残念ながら東南アジアでモータリゼーションが起こる可能性は低いことを前提に、日本の自動車メーカーは戦略を立て直す時期に来ているのではないだろうか?特に下位メーカーは持ち味を発揮できるニッチ市場でのビジネスモデルをより明確に打ち出す必要がある。