〜依然として強い国民車ブランドとしての『キジャン』〜

東南アジア最大の新車市場国インドネシアで、11月に発売された『キジャン・イノーバ・ゼニックス』が好調な立ち上がりを見せているようだ。
ボリューム感あふれるデザインと3列シートの豪華な室内は先代モデルからさらに進化しており、インドネシアの富裕層を魅了している。
販売価格5億ルピア超(日本円で450万円)というミドルクラス市場で月販4,000台というのはは大変立派なレベルである。
長ったらしい名前から読めるキジャンの歴史
それにしてもなんとも長ったらしい名前だ。インドネシアも含めたアジア全体の商品戦略のお家事情とトヨタの工夫が垣間見れる。
まずはキジャンという名前。

キジャンは1974年、今から50年近く前にインドネシアで小さなピックアップしてトラックとして開発、製造、発売された。その後の人々のライフスタイル変化と共に、多人数用途のミニバスモデルが主軸となり、第3世代の1986年よりインドネシアのベストセラーの地位を確立し維持していた。
まさにインドネシアの人々にとっては国民車とも言える商品ブランドなのである。
先代モデルはトヨタのアセアン全体戦略の一部となり当初はワリを食う
ところが2004年のモデルチェンジでタイのハイラックスと設計統合され、キジャンはベストセラーの地位から転落する。それまでの軽量、コンパクトなキジャンのミニバンモデルは、トラックの重たいフレームの上にフロアを設け、2000CCのトラック用エンジンを積んだ「大きくて重たくて燃費の悪い』MPV(マルチ・パーパス・ビークル)となる。キジャンとはあまりにもコンセプトの異なる設計なのだが、市場の要望でキジャンと言う名前を残しながら、アセアン諸国で新たに使うイノーバという名前をくっつけキジャン・イノーバとなる。(トヨタではIMVプロジェクトと名付けられている)
自動車メーカーにとってアセアンの商品戦略は頭が痛い課題である。
各国とも市場は100万台レベルかそれ以下。各国とも売れ筋商品は全く異なっているため、一モデルの各国の販売量は極めて少ない。しかも国内で生産しないとコスト高となるためなんとか輸出も含めた生産量確保を各国の工場で考えなければいけない。部品の共通化を車両の企画に盛り込むのは止むなしである。(ホンダも同様な手法でアセアンで4つの新モデルを一気に投入した)
キジャンブランドと商品改良と強い販売網で中級MPV市場を作り上げてしまった

キジャン・イノーバは当初は価格アップと取り回しの悪さによって苦戦し、インドネシアネシアでのベストセラーの座から転落。しかしながら再三に渡る商品改良や強力な販売網を背景に販売台数を順調に伸ばし、近年この価格帯のMVP市場では敵なしの存在となっている。インドネシアの人達にとってIMVでもイノーバでもなく、脈々と続くキジャンとして捉えられているのであろう。
中身もコンセプトも全く変わってしまったが、商品ブランドは強し。日本のクラウンと相通づるストーリーがあるのでは。
ようやくキジャンが乗用車になった?
そして、今回のキジャン・イノーバ・ゼニックス。
タイ生産のトラックのフレームを流用して設計した先代から、今回はノア/ボクシーのプラットフォーム(車台)を活用したモノコック構造(GA-C)を採用。環境に優しくないディーゼルのモデルを廃止し、ガソリン車は鋳鉄のトラック用エンジンをアルミ製の新エンジンに一新。ハイブリッドのモデルも新たに投入。ようやくキジャンが『商用車から作った乗用車』から『本当の乗用車になった』と言えるだろう。
さらに存在感を出した外観やワクワクする室内イルミネーションなど豪華内装スペックなどひとクラス上の高級SUVのような雰囲気を醸し出していて、インドネシアの富裕層のココロをガッツリと掴み、日本のクラウンのようにキジャンの歴史の新しいステージに移行して行くことを期待する。